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ドイツ:住みながら行う断熱改修

1月中旬、パッシブハウスで知られるキーアーキテクツ様主催のドイツ省エネ建築視察ツアーに参加する機会をいただきました。

このツアーでは、本場パッシブハウスの改修物件や新築物件の見学、ミュンヘンで開催されていた世界最大規模のミュンヘンBAU視察など、見るものほとんどが驚きの連続でしたが、今回はその驚きの一つであったフランクフルト市が進める市営団地の断熱改修についてご紹介します。フランクフルト市の市職員で省エネ政策を担当されているワイマン氏からご説明いただきました。

人口約70万人のフランクフルト市は全体でおよそ30万戸の住宅ストックを抱えています。その内のおよそ5万戸は1960~1970年代に建てられた低所得者向け公営住宅団地で、現在ABGホールディングス(市の第三セクター的な会社)が管理しています。現在ABGホールディングスと市は、この5万戸の公営住宅の断熱改修を進めています。

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■改修の目的
全体の改修計画は、再生可能な街づくりなどのプロジェクトに多く携わるドイツの著名な建築家アルバート・シュペア氏が担当されています。
今回の断熱改修は、単に住宅ストックのエネルギー効率を上げるという市の政策的な意味だけではなく、建物の老朽化とともに建物周辺の樹木も伸び放題で荒れていて、夜は道も暗く一人で歩けない治安の悪い状態だったため、その改善も目的の一つだったそうです。

■住みながら進める団地の断熱改修

驚いたのは、住民が住んでいる状態で断熱改修を進めているという事実でした。
このタイプの公営住宅に入っていた居住者のほとんどは低所得者層と高齢者で構成されていて、居住者側には住宅購入や一時転居を行う資金的な余裕がなかったので、市と管理会社であるABGホールディングスは居住しながら付加断熱で断熱改修を行うことにしたそうです。

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既存の外壁にEPS断熱材150mm厚ボードを外張り。

市の条例で規定されているパッシブコンポーネントに沿った材料で改修されています。開口部はパッシブ認定商品の樹脂トリプルサッシ(ドレーキップ)と外付けブラインドが採用されています。

改修費用は、およそ10万円/㎡とのことです。
費用負担については、改修後の家賃アップ分+市の税金+国の助成金で賄っているそうです。家賃アップについては、改修前に比べランニングコストが相当分減るため実際に払う家賃と光熱費の合計は変わらないそうで、反対や不満などはほとんどないとのことでした。

暖房設備については地域暖房を採用しています。近くにこの区画用のコージェネのプラントがあり、天然ガスで電気と温水を作り各家庭に分配しています。屋根の上には太陽光集熱パネルも設置されています。

この団地に生活しているのは約3000人で、市とABGホールディングスは全居住世帯から細かなところまで聞き取りをし、意見聞きながら改修計画をまとめています。住民に聞き込みした内容の内、個別対応できるものについては個別に対応し、ファサードなどのエリア全体の事案については、意見を取りまとめた上で、最終的にはオーナーであるABGが決定していく流れになります。意見の聞き取りや、住民へ説明するなどはかなり時間をかけて丁寧に行っているとのお話でした。

フランクフルト市では全ての街区について低所得者や高齢者が多く住む建物のエネルギー効率改善と同時に、どのように街区の治安を良くしていくのか、イメージを良くしていくのかということを、常にセットにして考えて計画をされている仰ってました。現在、ABGホールディングスが管理している5万戸のうち、半分は改修が終わっていて、残りも随時進める計画だそうです。

国(国民)や自治体(市民)が決めた省エネルギーという目標に向けて前に進む本気度を感じた物件でした。

ドイツで視察した他の事例についても別の機会にご報告していきたいと思います。


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